街は、放っておけば消える。
時間とともに朽ち、人に忘れられ、やがて地図からも消えていく。
だから人は、壊して、建て替えて、また新しく作る。
でも、この街は違った。止まった。
紀元前6世紀に築かれた都市、ポンペイ。
政治、経済、娯楽、整然とした街路に交通システム、水道システムもスパも、
“秩序”まで兼ね備えた設計は、2000年前とは思えない完成度だ。
街には神殿に劇場、市場、スパ、クリーニング屋、居酒屋、風俗までもがある。
そして人々は笑い、働き、恋をしていた。
そんな都市が、西暦79年、ヴェスヴィオ山の噴火によって、たった一日で歴史から姿を消します。
誰もが、ここで物語は終わったと思うだろう。
ところが──。
1700年後、地中から現れたのは“遺跡”ではなく、あの日の“都市”そのものでした。
パンを焼く窯、ワインの壺、壁に残る恋文、下ネタの落書き、推しの剣闘士への応援メッセージ。
2000年前の人たちは、思っていた以上に僕たちと変わらない。
違うのは、生きている時代だけなんだ。
ポンペイは、過去のタイムカプセルであると同時に、未来へのタイムカプセルでもある。
未開の場所も現代の技術を持ってすれば、急速に進めることだってできる。
遺す意味がないと判断すれば、ホテルだって建てられる。
でも、それは、開発に過ぎません。
ここは止まったままなのに、多くの人に知られ、受け入れられている。開発など無用だ。
ポンペイは終わった都市ではない。
1700年後に眠りから覚めた、もう一度始まった都市なのだ。
つづく
